メルマガ;192th 「日本の逆転フェーズ、LVMHの投資と大分からみる文明開化」
【目次】
- 今週の一言/モノリスの活動日記
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こんにちは。門垣です。
LVMHグループのファンド「Lキャタルトン」が、日本の飲食業に初めて本格投資を行いました。
投資先は、神戸で和牛レストランを多数展開する「吉祥吉ホールディングス」。
神戸吉祥吉 米ファンドのLキャタルトンが数十億で買収
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB301Y30Q5A730C2000000
世界で約5兆円を運用するLキャタルトンファンドは、近年、日本市場に対する注力度を高めており、最近では日本に特化した450億円規模のファンドも組成しています。
ルイ・ヴィトン系、日本企業買収へ450億円ファンド 化粧品や食品照準
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB30A230Q5A530C2000000/
注目すべきは、アパレルではなく「フード」領域への投資である点です。
和牛や寿司といった日本の食文化は、すでに世界的な評価を得ていますが、それを「文化資産」ではなく、「ビジネスの成長ドライバー」として見ている投資家が明確に増えていると感じます。
こうした動きは、単なる外資の買収というよりも、世界の資本家たちが、日本の伝統や職人技術の中にスケール可能な価値を見出し始めている証拠。
我々自身も昨年から海外ファミリー層と連携し、日本文化を軸にした投資や事業機会の創出に取り組んでおり、年末頃には公に発表できる案件もいくつか出てくる見込みです。
「日本が世界を学ぶ」時代から、「世界が日本を学びに来る」時代へ。
そんなパラダイムシフトを実感する機会が増えています。
そんなことを考えながら、週末は福岡出張のあと、レンタカーを借りて大分・別府・中津へと移動し、約400kmの旅をしてきました。
移動の合間に立ち寄ったのが、坂茂さんが建築した大分県立美術館(OPAM)で開催されていた
竹久夢二展です。

夢二さんの作品は、西洋の前衛美術と日本の伝統美が融合した独特の世界観を持っています。
代表作とされる「夢二式美人」には、日本的な線の美しさや情緒が表現されていますが、作品の変遷を追うと、初期は和服や着物を纏った女性像を描いていたものが、次第に西洋的な要素を取り入れ、ドレスをまとった女性や、より感情的で個性的な表現へと移行していきます。

この変化は、わずか14年5カ月の大正時代、大正デモクラシーと呼ばれる自由主義の拡大と重なっており、個性の尊重、感情の解放といったロマン主義的要素が花開いた時代背景と連動しています。
ロシア・バレエをはじめとした前衛的な芸術や、大衆文化・都市文化のモダンな刺激が加わる中で、日本独自の「夢のような芸術文化」が社会に浸透していきました。
私はこの過程そのものが、「大正ロマン」として象徴される時代の本質だと感じています。

そして今回の旅の締めくくりに訪れたのが中津。
ここは大正ロマンが始まるきっかけとなった、明治の立役者の福沢諭吉の故郷であり、彼の思想と行動が、いま我々が直面している国際環境とも重なると感じました。
福沢諭吉先生は今から約180年前に、漢学・蘭学を修めたながら、3度にわたる海外渡航を経験。
当時の日本では一般的だった儒教の教えに依拠せず、西洋の自然科学を土台にした教育方針を取りました。
彼が目指したのは、国家としての独立ではなく、まず「個人が独立すること」。
そのためには実学が必要であり、知識を得て自ら考え、行動できる人材の育成こそが急務であると考えたのです。そして個の独立が国家を創ると。
福沢諭吉の旧宅

その思想は、慶應義塾の創設、交詢社の設立、時事新報の創刊という三つの社会インフラとして具現化されました。
教育・出版・社交という領域を自ら立ち上げ、時代の枠組みごと更新しようとした彼の先見性は、現代においても多くの示唆を与えてくれます。また、福沢山脈と呼ばれる人たちは今の日本の財閥や大企業の礎を築いてきました。
中津城

また、心ない人々によって日本の山や土地が乱開発され、美しい景観が損なわれていくことを懸念し、親戚名義で土地を買い集め、日本の自然を守ろうとしたという逸話も残っています。
外の世界を受け入れながらも、自国の文化や風土を守るという視点。
その両立の感覚こそ、これからの日本に必要な考え方だと思います。
日本は、明治以降、積極的に西洋の制度や文化を取り入れて近代国家としての基盤を築いてきました。
しかし今、世界の方が日本に目を向け、日本の文化、技術、思想から学ぼうとしています。
私はこれを、「令和浪漫」とでも呼びたくなるような新たな流れの始まりと捉えています。
AIや宇宙といったテクノロジー領域においてだけでなく、文化や思想の分野でも、パラダイムシフトが起きている、と感じた一週間でした。
今週も、よろしくお願いします。