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メルマガ:202th 上海出張──グローバリゼーションの終焉とアジアの時代

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【目次】

今週の一言/モノリスの活動日記


こんにちは。門垣です。

週末は、自民・公明の連立解消ニュースに始まり、トランプ大統領の関税発言、中国によるレアアース規制の示唆など、世界が一気に騒がしくなりました。

そんな中、タイムリーに上海に滞在しており、今は台湾へ移動してきました。(メルマガが遅れてしまいすいません)

今回の上海は、1日と少しだけの短い滞在でしたが、ファミリー大企業の重役、シングルファミリーオフィス、マルチファミリーオフィス、テクノロジーユニコーン、ファンドなど、それぞれ別のプロジェクトを話しましたが、共通していたテーマは米中関係でした。

人によって見方は異なりますが、印象的だったのは、これまで世界がグローバリゼーションによって成長してきた時代が終わりつつあり、これからはナショナリズムの時代に移りつつあるということです。

中国の視点から見ると、「アメリカが何もしなければ中国も何も仕掛けない」。それでもアメリカが先に動くのは、自国の産業や経済の弱体化を自覚しており、他国が覇権を握ることを恐れているからだという見方もありました。お互いにきっては切れない関係だけど、口論をし続ける、夫婦関係に似ている というようなコメントもありました。

16〜17世紀のスペインが植民地貿易を独占し、他国の参入を排除したように、19〜20世紀のイギリスがボーア戦争で南アフリカの資源を確保し、清に対して自由貿易の名のもとに制裁を加えたように、覇権国が力を失い始めると、他国への制裁を強め、結果的に自国が疲弊していく。

歴史はそのパターンを何度も繰り返してきました。

今回もこの構図に似ていると思います。

アメリカの制裁によって中国がレアアース規制を行えば、ミサイルもつくれず、TSMCの製造も止まる可能性がある。

一方でアメリカは「Make America Great Again」を掲げ、自国製造業の再生を目指していますが、実際の現場ではアジア人の手先の器用さや忍耐強さに支えられてきたのが現実です。

工場で求められるのは、細やかさと根気です。
時間をかけて同じ作業を繰り返しながら、精度を積み上げていく力。
こうした領域はアジア人が得意で、個人的にはアメリカ人にはなかなか向いているとは思えません。

つまり、本来であれば、アジアがアメリカに技術を教える時代になってもおかしくないのですが、いまはそれを排除する方向に進んでいます。
その結果、良いモノづくりができない時代になりつつあるのかもしれません。

そしてAI産業では、中国が急速に存在感を強めています。
アメリカに引けを取らず、すでに世界の主要プレイヤーとなりつつあります。

ただ、「中国企業」というだけで取引を拒まれることも多く、あるテック企業では社長が国籍をドイツに変え、本社もドイツに移したといいます。

実際の経営陣は中国人ですが、中国人比率が高すぎると疑われるため、形式的にドイツ人を役員として入れている。

まるで卓球の代表チームのように、ドイツチームでありながら、元々中国国籍の選手が多いという構図です。ビジネスのためにここまで振り切れるのはすごいなと思いつつ、政府に振り回されている民間ビジネスをやるうえでは、仕方ないのかとも思ってしまいます。

したがって、 テクノロジーが国家の戦略ではなく、“生存のための手段”になっている。それがいまの現実です。

AIによる変化は、すでに企業の内部構造にも影響を与えています。
サプライチェーンマネジメントのような部門は急速に自動化され、中国のZARAではかつて何十人もいた在庫管理チームが、いまやほぼゼロになったそうです。

AIが人の仕事を奪うというより、仕事そのものの意味を変えています。

さらに、中国の内需は少しずつ回復しており、消費意欲も戻りつつあります。

ただし消費者は以前よりも洗練されていて、ハイクラスの人たちの中では「中国でつくった海外ブランドを高額で買うのはおかしい」という感覚が広がっているようです。 クオリティが高ければ国内ブランドでも構わない。

その結果、トップレベルのラグジュアリーブランドはいまだに好調ですが、中間層向けブランドの売上は伸び悩み、マスマーケットか超高級か、二極化が進んでいます。

また、ヨーロッパのような伝統的ラグジュアリーではないものの、プレミアム・ラグジュアリーブランドを立ち上げ、数年で大手企業に売却する若手起業家も増えています。たとえば最近では、ヨガスポーツブランドのルルレモンのようなブランドを構築し、国内の大手にエグジットするような動きもあったようです。

中国が「製造大国」から「ブランドを生み出す国」へと変わっていく流れを感じます。

地政学、テクノロジー、文化、消費。
それぞれが絡み合いながら、新しい時代の構造が形づくられている。
まさにその変化の真ん中にいるような滞在でした。

来週は台湾と香港の情報をお届けできるようにします。

今週もよろしくお願いします。

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