メルマガ: 70th 「金融危機の波:シリコンバレー銀行とクレディ・スイスの行方」
【目次】
1.今週の一言/世の中のサイクル
2.モノリスの活動日記/作成中
3. 金融コラム/シリコンバレー銀行とクレディスイス
1. 今週の一言/世の中のサイクル
こんにちは。門垣です。
今週のメルマガはいつにも増して、金融色が濃い構成になっていますが、
週末は、ヘッジファンドの王様のレイダリオ氏の本
「巨大債務危機を理解する」を読みました。
かなり大きい本です。
500ページほどありますが、内容をいうと、
彼が研究した【長期債務サイクル】を紹介しています。
つまり、世の中の経済の循環/周期です。
その結論にいたる根拠、データ、考え方が含まれており、これまでに実際に起こった48の事例を載せています。
1.サイクル初期
2.バブル
- ピーク
- 不況
5.美しいでレバレッジ
6.暖簾に腕押し/平常化(7)
というサイクルですが、この研究と今の世の中を照らし合わせてみると、ピークと不況の狭間でしょうか。
どの時代も、金融引き締めによる金利の上昇が景気のピークになり、ピーク初期では短期金利と長期金利の差が縮小し逆転し、人々は現金保有に走り、信用拡大ペースが縮小し……
やはり、物事をサイクルで考えるのは大切だなと感じた一週間でした。
2. モノリスの活動日記/作成中
先週は、Monolith Consulting Groupを設立したと
お伝えしました。
現在、新しい体制に想いを込め、
マネーコンパス社、Monolith Consulting Groupの
ロゴを作成しています。
Consulting Groupの会社概要資料も完成しましたので、ご興味ある方は、お気軽にご連絡ください。
3. 金融コラム/クレディスイス株とシリコンバレーバンク銀行
今日は、世間を騒がせる2つの銀行について簡単に書きます。
今回のメルマガでは、モノリスの見解ではなく、事実をメインにしています。
■米銀シリコンバレー銀行(SVB)
過去10年で最大の米銀破綻です。
1983年設立の、テクノロジースタートアップ向け金融サービスに特化してきたSVBが、10日に経営破綻をしました。
総資産は約28兆円で、米銀で16位でした。
預金額は約22兆円あります。
ちなみにゆうちょ銀行の預金総額は、
約195兆円(預金額日本2位)です。
預金額20兆円とは、日本でいうと、ふくおかフィナンシャルグループ(8位)やコンコルディアフィナンシャルグループ(横浜銀行/東日本銀行 9位)くらいの規模です。

(出所:日経新聞より抜粋)
現在は、カリフォルニア州の金融保護当局と連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置かれています。FDICは、顧客資金をできるだけ返せるように、親会社SVBファイナンシャルグループの買い手を探しています。
グループには、商業銀行、ウェルスマネジメント、投資銀行、ファンド(ポートフォリオマネジメント部門)などがあり、関連子会社が100社以上もありますが、グループ純収益約8,170億円のうち、8割が商業銀行部門が支える組織構造になっています。
ちなみに、日本の銀行の純収益では、りそなが約7,000億円です。(4番目) 福岡やコンコルディアは、2~2,500億円程度です。
このシリコンバレーバンクの関連会社であるSVB Securitiesの経営陣は、証券業自体は問題ないことから、この部門の買い戻し(MBO)も検討しています。
■破綻理由/株価/債券
さて、今回の破綻の理由となった大きな要因は、ベンチャー企業などから集めていた預金を活用して、ポートフォリオの半分以上を債券ポートフォリオ(長期債や住宅ローン担保証券)を運用していましたが、金利上昇により損失を被ったことがあげられます。
つまり短期で借りたお金を、長期で貸して、該当の証券の時価が下がりました。
ちなみに、日本の銀行も同じことをしています。
SVBグループの総資産27兆円のうち、
約半分以上を短期/長期投資に活用していました。

(Bloombergデータよりモノリス作成)
フィナンシャルグループ全体の資産の話であり、国もビジネスも異なるので、単純比較をすることはできませんが、バランスシートをみると、福岡FGと比較して
投資比率が高いようにみえます。
この結果、流動性の問題が生じ、対策として、保有債券の売却や資本増強策を発表しましたが、信用不安を招き株価が急落しました。

(出所:Bloomberg)
保有していた債券情報は取得できなかったのですが、SVBグループが保有している上場株は報告書ベースで30銘柄ほどあります。
暗号通貨のプラットフォームを手掛けるコインベースや、IT・ソフトウェア会社のオクタ等です。
リスクの高いベンチャーから資金を預かり、長期債券購入にとどまらず、仮想通貨などの金融業への投資も行っていたのですね。
■他行への影響
また、SVBの報道をうけて、米国大手商業銀行・証券であり助言会社を運営しているチャールズシュワブの株は一時12%下げました。
市場では、SVBとの類似性があまりないにもかかわらず、過大解釈があるとされています。(他の要因もあるとされていますが)

(出所:Bloomberg)
同様に、S&P500金融株価指数(67銘柄で構成)の価格も一週間で -8.5%下がっています。

(出所:Bloomberg)
一方で、米国の金融機関の債券2116銘柄で構成される、Bloomberg 米国金融機関債券指数(ヘッジなし)の価格は、全くといっていいほど影響がなかったといえます。
今月のリターンは、+0.52%でした。
もちろん、今回の要因となった過去一年の金利上昇による価格の下落で指数価格は下がっていますが、このSVBによる影響は今のところ限定的といったところです。

(出所:Bloomberg)
■SVBと密接なベンチャー企業は
一方、ベンチャー企業は預金をすぐに引き出せないため、ビジネスに影響してくるだろうと予想できます。従業員の給与支払いなどは滞りそうですね。
ステーブルコインを発行する米サークルは、33億ドル(約4,450億円)を引き出せないと発表しています。
さて、これから、この銀行破綻問題が、市場にどのように影響してくるか。
モノリスの見解は、運用助言やwealth chatお客様のみに配信していきます。
■クレディスイス
クレディスイスの株が上場来安値を更新し、時価総額は日本円で、1.4兆円ほどの規模に縮小してきました。
MUFGの時価総額が約11兆円ですから、1/10のサイズです。野村ホールディングスは約1.8兆円なので、野村と同じ規模ですね。
(出所:Bloomberg 株価と時価総額)
さて、Wealth Chatレポートで配信したように、2月に発表した決算の予想以上の赤字だったことや、投資銀行スピンアウトの計画発表に対して、長年にわたってクレディスイスの筆頭株主であった、投資運用会社のハリス・アソシエイツが懸念をいだき、保有株式の全てを売却しました。
この動きにともない、負の連鎖が広がり、Bloombergのデータを集計したモノリスの調査によると、1,500以上の投資家が保有株式を全て売却する動きに繋がりました。

(一部抜粋)
現在は、サウジナショナルバンク(約10%)、カタール投資庁(約7%)、ブラックロック等(約4%) が筆頭株主になっています。
規制コンプライアンスの責任者であるジュリアン・グッティング氏が会社を去る報道や、米証券取引委員会から過去の提出資料に関するチェックが入ったため、22年の年次報告書と報酬詳細の公表を延期するなど、ネガティブなニュースが飛び交っています。
日本においても、投資銀行部門の人員削減のニュースが発表されています。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-03-09/RR91HAT1UM0X01
私の前職時代に、ドイツ証券を担当していた時期があったのですが、その時に組織再編で力を発揮していた元社長の桑原氏が、現在はクレディスイス証券の社長であることから、過去の経験を活かして、迅速な対応をしたと考えています。
しかしながら、先日、米系の投資銀行(日本拠点)で働いている友人とも話しましたが、やはり今年は市場全体が厳しく、投資銀行の仕事も数多くあるわけではない、と言っていました。
したがって、この流れは、まだ終わることもないのかなと考えています。
さて、ここまでくるとネガティブなニュースしか入ってきませんが、一方で、ウェルスマネジメント部門においては、中国で証券取引や投資コンサルタントをすることができる免許を取得しています。
人員増加の計画も発表していることから、アジアの富裕層ビジネスはまだまだ拡大するとみているのでしょう。
今週もよろしくお願い申し上げます。