メルマガ: 182th 「香港出張記:「森」と「資本」から考える、これからのファミリーオフィス」
【目次】
- 今週の一言/モノリスの活動日記
こんにちは。門垣です。
先週、クライアントとともに香港を訪問しました。
学生時代に留学していたことがあり、個人的にも懐かしい時間となりました。
街並みそのものは大きく変わっていなかったものの、
欧米系のビジネスパーソンや観光客の姿が少なくなっていたのが印象的でした。

まず訪れたのは、イラクをルーツに持つユダヤ人で香港を拠点しているカードリーファミリーが保有する森や植物の研究施設。
ここは、かつて人の手によって一度すべてを焼き払い(or 焼き払われた)、ゼロから森を再生させた土地。 2,500種以上の植物が植えられ、現在では多様な生命が共存し、人の手を離れながらも自律的に繁栄する森を目指して270人の従業員とともに、管理が続けられています。
この森の設計思想は、「守る」のでも「放置する」のでもなく、自然が自らの力で循環していけるように、最小限の“支え”だけを残すという考え方。
人間が何も手を加えなければ、森は生存はするものの、限定的になるとのことでした。

何もなかった場所が、約20年間で上記のような姿の山になっているため、驚きです。
そのほかにもサメのDNAの研究なども行っているようです。
自然の中ではすべての存在に意味があります。
植物は陽を求めて育ち、森で出会うと怖くなるミツバチは受粉を支えるポリネーターとして機能する。一見地味で小さな営みが、全体のバランスを保っている。
著名なファンドマネージャーのレイ・ダリオ氏もビジネスで活かせる「原理原則は自然界にある」と語り、OceanXという団体を通じて特に海の研究を行っているようですが、 今回、その言葉の重みを身体で理解した気がしました。人の手を加えた自然だが、いままで見たことがない未知の種が生まれ、育ち、その植物からまた新たな植物へ派生する多様性あるエコシステムで成り立っています。
200億円を海の環境保護活動へ
https://forbesjapan.com/articles/detail/23767

その後、2日間にわたり開催されたインパクト投資のカンファレンスに参加。
主にアジアのファミリーオフィスや財団、企業が集まり、資本をいかに社会課題に接続させるかについて実践や哲学が共有されました。
日本では事業会社や機関投資家がインパクトやサステイナブル投資にチャレンジし始めましたが、海外ではファミリーオフィスや財団が、金銭的リターンよりも社会的リターンを重視し、体系的にインパクト投資に取り組んでいるという点です。
例えば、寄付や助成金を提供した企業がイグジットしなくても、雇用を創出して、廃棄プラスティックの削減などが大量に行えば、それは社会にとってリターンがあるという意味合いです。
このようなプリンシパル投資をするために、ファミリーのお金を普通に運用するだけではなく、投資哲学やプリンシパルを設計し、どれくらいの資金を、何のために、どのように再分配していくのか、を考え実践していくか、が主流のテーマとなっています。
数百万円から数千万円の助成金・寄付が、社会課題解決のためのプロジェクト、スタートアップ、地域、教育機関等に流れ、その循環がさらに数千~数億規模の資金を呼び込む。その後は、寄付や助成金ではなく、出資が集まり、さらにプロジェクトや会社が大きくなっていく。
そんな事例が、東南アジアや欧米からいくつも紹介されました。
社会課題は、気候変動問題、エネルギー・インフラ問題、紛争、難民、人権、テクノロジーによるプライバシーの侵害、繋がりの希薄化による精神的な病気などたくさんあります。
各プロジェクトの発掘、デューデリジェンス、チームの作り方、投資や寄付の方法等、様々なトピックで、グループディスカッションも実施され、参加者同士で知見や課題を交わし合う貴重な場となっていました。
議論の中心にあったのは、東南アジア、欧米、そして中国・韓国を含む東アジア。
日本人がおらず、日本のプレゼンスのなさに、少し寂しさを覚えると同時に、自分たちの立ち位置をあらためて考えさせられる機会となりました。
世界のどこに行っても【日本から来た】というだけで、好感をもたられる民族であり、国家であることを実感するからこそ、もったいないとも感じました。

あるスピーカーは、ゲイツ財団を訪れた際のエピソードを紹介していました。
ビル・ゲイツ氏が「自分の全資産を使い切っても、世界に与えるインパクトは小さい」と語っていたという話です。この言葉は、世界の大富豪をもってしても、一人の力が世界を変えるには限界があるという現実を示していますが、それでも、やる意味がある。
なぜなら、誰かの選択や行動が、将来の誰かの人生や希望につながっていくからです。
モノリスとしても、こうした思想や構造の中で、
資本を“支配”の道具や自分だけの運用ではなく、“循環”の仕組みとして設計し、持続的な影響をつくっていけるようなファミリーオフィスサービスを設計していきたい、と強く感じました。
お客様向けには、いくつかのファミリーオフィスや財団の具体事例や支援スキームの簡単な要約をポータルにまとめていますので、ぜひご覧ください。
香港出張記
今週もよろしくお願いします。