メルマガ: 181th 「遠くて近い、スイスという選択肢 -資産の置き場所を考える-」
【目次】
- 今週の一言/モノリスの活動日記
1.今週の一言/モノリスの活動日記
こんにちは。門垣です。
今週は以前スイスでお会いした、スイス居住の独立系バンカーの方やスイスの富裕層が来日されたので、スイスをテーマに。
スイスは人口900万人ほどの内陸国で、九州より少し大きいくらいの規模。山に囲まれた静かな国という印象がありますが、ネスレ、ノバルティス、ロシュ、ロレックス、オメガなど、世界的な企業が本社を構える経済力も兼ね備えています。
そして、プライベートバンク発祥の地でもあります。
ジュネーブ、チューリッヒ、バーゼル、ルガーノなどの都市ごとにルーツが異なり、たとえばチューリッヒやバーゼルは傭兵の資産を守ることが起点に。ジュネーブは宗教迫害を逃れたユグノーの資産を預かる目的で始まり、ルガーノはイタリアに近いため、イタリアの富裕層資金が流れ込んだ背景があるそうです。
グローバル型のプライベートバンクとしては、UBS、ジュリアス・ベア、ピクテ、ロンバー・オディエなどが有名ですが、個人的には独立系プライベートバンクの方に関心があります。
具体的には以下のような銀行があります。
Bordier & Cie(ボルディエ・エ・シエ)
Rahn + Bodmer(ラーン・ウント・ボドマー)
Mirabaud(ミラボー)
Reichmuth & Co.(ライヒムート)
Gonet & Cie(ゴネ・エ・シエ)
Landolt & Cie(ランドルト・エ・シエ)
これらの銀行では、いまでも創業家やそのファミリーが経営に関与しており、自社資産を運用しながら、長年付き合いのある地元ファミリーの資産も扱っています。
実際に訪問してみて、少数精鋭で経営されており、全体的に人柄も柔らかく、対応も柔軟で、話しやすい空気感が印象的でした。
たとえば、大手銀行では難しいとされる業種や、資産背景によっては口座開設そのものが難しくなる場合がありますが、独立系であれば交渉の余地があることもあるようです。オーナー判断で進むケースも多く、対応のスピードも比較的早い印象です。


ただし、日本人にとっては、スイスでの口座開設や維持は年々厳しくなっています。マネーロンダリングや税務透明性強化の流れに加え、2017年にスイスがAEOI(共通報告基準)に参加したことで、非居住者の情報が各国の税務当局に共有されるようになりました。
実際、過去には多くの日本人がスイスのプライベートバンクに口座を持っていましたが、最近は閉鎖されたり、新規開設が断られるケースも増えています。
生活環境としてのスイスにも触れておくと、海がないため新鮮な魚が手に入りにくく、日本食レストランも少ないようです。最近ではチューリッヒにタイ料理店が増えているとも聞きましたが、和食に慣れた人にとっては少し物足りないかもしれません。
しかしながら、最近では、兵庫県の駅弁メーカー「まねき食品」がチューリッヒ駅で期間限定店舗を出店し、冷凍米を日本から送り、現地食材と組み合わせて弁当を販売したそうです。2時間で2000個が完売し、価格は1個4000円ほど。それでも現地では「安すぎる」と好評だったようです。
駅弁が「スイス進出」まねき商品などが3社が期間限定店
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF021GP0S4A201C2000000/
また、チーズフォンデュやラクレットといった郷土料理も有名ですが、毎日食べるには重たい印象です。しかしながら、前回訪問したときに食べたラクレットは絶品でした。(定番なお店ですが)

また、スイスに住んでいる人はチーズとワインを愛好家が多く、また自宅の地下にはシェルターを義務づけられている場合も多いのですが、そこをワインセラーとして活用する人もいます。私が以前お会いした方は、かなりの数のワインをジュネーブの保税倉庫に保管していましたが、日常使いですぐにワインをとりだせるように、ジュネーブの中心地の地下にもプライベートセラーを置いていました。


物価は非常に高いのですが、給与水準でいうと、スーパーのパート勤務でも年収800〜1000万円、一般事務職でも1000万円前後と言われています。コンビニにあるようなサンドイッチでも数千円という水準。ある程度の資産がないと、快適な生活を維持するのは難しそうなので、現地に住む日本人の数も限られてくると思います。
さて話を金融に戻しますが、日本居住の日本人向けにスイス現地の金融ライセンスを保有し、現地に拠点を構える運用会社(エクスターナルアセットマネージャー)もスイスには存在していますが、基本的には昔からの関係者を中心に対応しており、新規顧客に積極的な印象は受けません。加えて、どの銀行もサービスの差が少ないため、近年ではシンガポールや香港など、地理的にも近く、利便性の高い地域で口座を開設する流れが強まっています。
とはいえ、欧州からの情報アクセス、地政学リスク分散といった観点から、一定の需要は残っています。円建て資産の目減りや、増税リスクを踏まえると、何も行動しないことがリスクと考える人が増えてきているのかもしれません。
弊社の運用でも、最近はスイスフラン建てでローンを組んで運用助言を行う事例が増えてきました。期間によっては円よりも低金利で借りられることもあり、通貨の安定性を重視した活用が進んでいます。
今後、日本では本格的に大きな相続が始まっていきます。
何をどう残すか、あるいは残さないという選択も含めて、それぞれの価値観が問われていく時代です。
資産をどこに置き、誰に、どのように託すのか。
そして、地理的な条件も踏まえながら、どう設計していくか。
その選択が、次の世代への橋渡しになるのだと思います。
今週もよろしくお願いします。