メルマガ: 176th 「歴史の反復と革新──トランプの関税政策と未来」
目次
1. 今週の一言/モノリスの活動日記
1. 今週の一言/モノリスの活動日記
こんにちは。門垣です。
昨今は金融・経済市場が相当荒れていますね。
2025年4月2日、米国のトランプ大統領によって発表された一律10%、日本には24%の関税導入措置は、世界中の市場と政策決定者に大きな衝撃を与えました。
表向きは自国製造業の保護や貿易赤字の解消という理屈ですが、実態としては約7兆ドルにのぼる2025年償還の米国債の借り換え準備とも言われています。
まさに財政と外交と安全保障が混ざった、米国流のパワーポリティクスです。本当に交渉の上手な商売人の大統領ですね。
このような背景により、短期的には弊社の株式アクティブ運用助言、及びグローバルマクロ運用助言も影響を受けていますが、このような局面こそ焦らず、過去の歴史と照らし合わせながら、冷静に次の一手を考える必要があると感じています。
歴史を振り返ると、1846年にイギリスがコーン法を撤廃し、農産物への高関税を取り除いたことで、自由貿易が一気に広まりました。
イギリスはこの決断を通じて「世界の工場」としての地位を築いていきました。
約60年後の1930年のアメリカでは、世界恐慌の最中にフーヴァー政権下で、スムート・ホーリー関税法が成立し、各国からの輸入品に40%前後の高関税がかけられました。
他国は報復関税で応じ、世界の貿易は急減。結果として株式市場は暴落し、世界的なデフレが進行。企業の倒産、失業率の上昇、社会不安が一気に広がりました。今回、同様のケースが発生する可能性もあります。
米国株式市場指数

(出社:https://financial.jiji.com/barrons_digest/back_number.html?number=83)
この混乱の中で米国は金本位制から離脱し、通貨戦争の様相を呈しはじめます。ルーズベルト大統領が就任すると、為替の切り下げを通じて輸出を促し、国内では公共事業や雇用創出などの内需拡大策へと大きく舵を切りました。今回と似たようなパターンですね。ドル安主導の政策です。

(ウェブサイトより抜粋)
第二次世界大戦後、1947年にGATT(関税および貿易に関する一般協定)が発足しましたが、世界的な自由貿易体制の再構築には実に15年以上の時間が必要でした。
政府の第一の務めは秩序の確立だと思っていますが、国際的な協調や秩序というのは、非常に脆く、そして時間のかかる営みであることを改めて思い知らされます。2世紀のマルクスアウレリウス時代のローマ帝国は最も人類が幸せに繁栄した時代の一つともいわれていますが、
理性と徳を持って生きる思想が社会にに根付き、人々が国家のために何ができるかを考え、人々同士が協力しながら、地域社会がより密接になっていました。
その時代と比較すると、現代の世の中は、ビジョンや思想よりも、政治は【いかに勝利するか】がテーマであり、エゴに走り、SNSや資本主義の発展により、人々は競争社会、承認欲求、人間関係も希薄になり、不安や、メンタル疾患が増えている世の中です。
そのような状況の中で、国家は建前としては民主主義を掲げながら、実際には強権的なリーダーが経済政策を主導し、国際協定はあって、ないようなものになりつつあります。独裁政治は民主政治から生まれるといいます。
まさにヒトラーやムッソリーニのファシズムの台頭のように、1人のリーダーによる独裁政治、あるいは少数のリーダーによって支配される寡頭制によって、世界がすぐに変わってしまう世の中です。トランプ氏はかなりの重商主義です。味方になればありがたいですが、敵になれば脅威的な存在です。
日本はほとんどの交渉に勝つことができず、今回もまた言いなりになることでしょう。しかしながら、トランプは長引かせたくないと思うので、交渉のツールとして関税政策を使っていますが、もし長引くことになれば、市場が復活する時間もかかります。
そして、各国は自由貿易の恩恵を享受しながらも、自国の産業と雇用を極端に守っていく、という矛盾した行動に走っています。
一方で、100年前の当時と決定的に違うのは、テクノロジーと非中央集権的な資産の存在です。
ビットコインを筆頭とした暗号資産は、金に代わる新たな“安全資産”として世界中で認識され始めています。価格のボラテリティは全然安全資産ではないですが、国からのコントロールがないという意味では安全です。
これまでのように「国が発行する通貨」だけではリスクヘッジできないと感じる人が、今回をきっかけに、金もさることながら、さらに実需として分散型資産を選び始めていくでしょう。
また、100年前と異なり、いま進んでいるのは貿易において「モノの戦争」ではなく「情報の戦争」です。AIや半導体、アルゴリズム、テックプラットフォームといった目に見えない資産が貿易戦争の主戦場となっています。(半導体等は目に見えますが)
先週、中国の時価総額50兆円を超える巨大テック企業の元副社長と打ち合わせをしました。
彼らのビジネスは単なる民間レベルにとどまらず、国家の戦略そのものに直結していると感じました。世界各国から資金を集め、投資家と協力しながら、グローバルに投資をしています。日本企業も投資家として存在し、投資家である日本の企業の技術とも協業をすることから、日本の技術が世界へ拡散、言い換えればいとも簡単に日本の技術が中国や各国へ奪われる、ことが発生しています。日本のビジネス界のリーダーもこれを理解して協業をしています。
基本的にはこの辺りは民間主導ですが、個人的には後ろ側に政府がいてもおかしくないと思っています。話を聞いていてそんな感覚がしました。
私個人としても、日本企業のグローバル化を促進していきたい一方で、自国を守る、結局自由貿易に乗り切れない自分もいることから、なんとなくトランプがやっていることも理解できます。
しかしながら、ビジネスが国家戦略と不可分になる時代において、企業が国境を超えて動く力はますます強まっていくでしょう。
さらに、国を動かすのは国家だけではなく、人々一人ひとりの「選択」だということも強調したいです。100年前には物理的に難しかった国境を超えるという行為が、今では渡航費があれば、誰にでも可能です。
教育、生活環境、安全、価値観といった観点から、強い愛国心やイデオロギーがなければ、より良い環境を求めて生きる場所を変える人は確実に増えています。とくに、子どもの教育を軸に国をまたぐ家族は、私の身の回りでも年々増えています。
私たちマルチファミリーオフィスを運営するモノリスとしては、こうしたマクロの構造と長期の時代の流れを冷静に捉えながらも、日々の運用においては柔軟かつ慎重に対応していくことが必要だと考えています。
相場は上がったり下がったりを繰り返すものだからこそ、短期的な感情に流されないけど、短期的にもアルファをとりながら、長期的な視点で資産を守り、増やすこと。そのための仕組みと準備が求められていると感じています。
一つのニュース、それもフェイクニュースでも市場には大きなインパクトを与えてしまう世の中だからこそ、意思決定が難しい世の中であるため、いままで以上に現場感や一次情報は獲得して真実を見極めていきたいものです。
今週もよろしくお願い申し上げます。